【001】-ビール侯爵・完全日本語版(Fuerstenfeld)

ビール侯爵 完全日本語版
・作者:フリーデマン・フリーゼ(Friedemann Friese)
・対応人数:2〜5人
・実プレイ時間:60分(3人/4人で)
・プレイ回数:4回

■ゲームの概要■

『電力会社(Funkenschlag)』などで知られるデザイナー、フリーデマン・フリーゼが作った「お金を儲けよう!」ゲーム。
プレイヤーは、とある地方貴族(領主)の役割を演じる。自分の所有する土地をうまく開発してお金を儲け、そのお金で栄華の象徴となる「宮殿」を建設するのが目標だ。
お金を儲けるために利用するのが、地元に何軒かあるビールの醸造所。自分の土地から産出できるビールの原材料を醸造所に売って現金化し、それを使って土地をさらに開発して……ということを繰り返して資産を増やしていく。価格は需給バランスによって変動するし、開発の選択肢も刻々と変わっていく。タイミングを見誤らず、うまく自分のペースをつかめた人が、最終的に勝つ。

■3つのやり方で、土地を開発しよう■

プレイヤーは、専用の土地ボードを持ってゲームを始める。土地は6分割してあって、3カ所の開発は済んでいる。初期状態だと、水、麦、ホップというビールの原材料が1単位ずつ産出される。
土地を変化させるのが20枚以上ある「開発カード」だ。各区画にカードを置いていくことで、開発が完了する。すでに開発してある土地を別の形にしたいときには、“上書き”する形で変えていく。
カードには大きく分けて「泉/畑」「建物」「宮殿」の3つがある。「泉/畑」は原材料を産出するため、プレイヤーの経済基盤を強化してくれる。「建物」はプレイヤーに恩恵をもたらす特殊効果を与えるので、ゲーム展開が有利になる。最後の「宮殿」は、勝利条件に直結するカード。ほとんど恩恵はないが、これを6つ建てないと勝利できない。
プレイヤーが手持ちにできる開発カードは3枚。1回の手番では、このうち2枚しか利用できない。ひとまとまりの山札になっている開発カードから、何がいつ出るか、どういうタイミングで使っていくかが、プレイヤーの頭を悩ませる。使うことをあきらめたカードは山札に戻り、再利用できる。どのカードを後に残すか、という決断も大切だ。

■原料の売り買いで、相場をコントロール

土地の開発には現金が必要だけれど、何もしなければ現金は手に入らない。自分の土地にある「泉/畑」から産出されるビールの原料をビールの醸造所に売ることで、現金を手に入れなければならない。
醸造所は、最大5カ所ある。それぞれの醸造所ごとに、ビール造りに必要な原材料の配分は微妙に異なる。たとえば、水3つ+麦2つ+ホップ3つで造るところもあるし、すべてを2ずつ使うところもある。
醸造所が必要とする需要を、どれだけ満たせたかによって、原材料を現金化するときの相場は変わっていく。自分の持つ原材料をどこに売るか、いくらで売るか、は重要な問題だ。目先の値段だけでなく、将来的な変動も見越した上で売却する必要がある。

■わかりやすい仕組みと、「宮殿」の悩み■

土地を開発→ビールの原材料を確保→醸造所に売って現金化→それを元手に、さらに土地を開発……という流れを繰り返してゲームは進んでいく。開発の仕方と効果、需給バランスによる原材料価格の変動など、ゲームに組み込まれている仕組みはどれも適度な抽象化がなされていてわかりやすい。何をどうすればどうなるかが把握しやすいので、プレイヤーは自分の「作戦」に集中できる。
ゲームのゴールは「宮殿」を建設すること。ところがこの「宮殿」は、原材料を生み出さないし、特殊効果も持っていない。いつ「泉/畑」や「建物」をつぶして「宮殿」にするか。ゲーム中盤から後半にかけては、その“見切り”が大切になってくる。他プレイヤーの動向によっては無理を承知で建てなくてはいけなくなるかもしれない。どこで開発の方向を切り替えていくかは決断に悩む部分で、プレイヤーによる差が出やすいだろう。

■自分の「やり方」を試せる好ゲーム■

『ビール侯爵』を、3人で2回、4人で2回遊んでみた。ここまで述べた特徴がうまく融合して、非常に魅力的なゲームに仕上がっているように感じた。あまりに面白かったので、「もう一回!」コールを何度もしてしまったほどだ。
このゲームの面白さは、自分の「やり方(作戦)」を考えやすいところにあると思う。行動の選択肢とその効果が見えやすいので、ゲーム全体を通した作戦を考えるのは容易だ。もちろん、その作戦がうまくいくことは少ない。開発カードの引きという運の要素と、他プレイヤーとの絡みで、作戦の修正を余儀なくされることもあるからだ。最初に立てた作戦がうまくいかなかったとき、どのように修整していくのがいいか。遊んでいる間は常に、そのことで頭がいっぱいになる。この決断と修整の繰り返しに頭を使うことが心地よい。ゲームが終わったときに「次はああしたい、こうしたい」という考えが次々に浮かび、もう一度遊びたくなってしまう。
もう一つ、繰り返し遊びたくなる要素となっているのが、勝利条件の設定だ。「宮殿」を6軒建てたプレイヤーがいると、ゲームはそこで終了する。ということは、負けたプレイヤーは6軒以下しか建設できていないことになる。これが悔しいのだ。「次こそ、6軒建てきりたい!」いう達成感の追求意欲が高まるように感じた。

■『建築屋』のコストは、安すぎないか?■

いいことばかり書いてきたが、気になる点もある。最大のものは、開発カードの『建築屋』についてだ。これは、現金5で建設できる建物で、プレイヤーに「以後の建築はすべて−2コスト」という恩恵を与えてくれる。この効果は絶大で、最初の手札に入っていれば、建てるのは当然という感じになっている。ということは、最初の手札が重要になってくるわけで、6枚(あるいは、13枚)の中に『建築屋』が入っていなかったプレイヤーが不利になる感じが強い。これ、何とかならんのかなぁ。『建築屋』のコストを高めるとか、「効果は1手番に1枚のみ」などにしてみてはどうかと思っている。
もう一つ気になったのが、ビール醸造所の総数。プレイヤー人数分だけ醸造所がある現状のルールだと、ダイナミックな価格変動が起こりにくいように感じる。たとえば、プレイヤー人数より1箇所少なくする、といったパターンにしてみると、プレイ順を変える効果を持つ『迎賓館』の価値が高まりそう。今度は、こうしたローカルルールを導入して、ちょっと試してみたい。

■ファイナル・コメント■

『ビール侯爵』は、多くの仕組みを組み合わせながら、全体としてスッキリまとまった好ゲームに仕上がっている。大局観と決断力を試すゲームが好きな私にとって、かなりのインパクトを持つタイトルだった。同じような嗜好を持つ方には、ぜひオススメしたい。