【033】ウィン、ルーズ、バナナ!(Win, Lose, or Banana!)


・作者:クリス・キースリック(Chris Cieslik)
・対応人数:3人
・実プレイ時間:1分
・プレイ回数:4回

■ゲームにとって美とは何か■

何人かで遊ぶボードゲーム/カードゲームの面白さには、いろいろな要素がある。コンポーネントの美しさを愛でる、ルールが示す世界観を体感する、ゲームを構成する仕組みに感心する、など、人によって琴線に触れるところは異なるだろう。
私の場合、もっとも重視しているのは「読み合いと決断」だ。場の状況を分析し、相手がどんな手を狙っているのかを推察し、自分が打つ手がどんな影響をもたらすかを考える。そして、いくつかある選択肢の中からたった一つのものを選び取り、実行する。うまくいったときの「してやったり感」はもちろん、読みを外したときの悔しさも、ゲームの面白さだと考えている。
もちろん、「読み合いと決断」は、どんなゲームも備えている要素だ。けれども、その表現の仕方はゲームごとに異なる。状況判断をするために把握しなければならない要素が多かったり、選択できる手が多すぎるゲームは、興味深さは感じるけれどストレートに心に伝わってこない。「頭では理解できるけど、腹に落ちない」というところだろうか(思考が単純なのかな)。

■3人による共同主観的存立構造■

「読み合いと決断」の面白さ。それを追求し、夾雑物と思われるものを徹底的に排除したゲーム。それが『Win, Lose, Banana』だ。パッケージに収められているのは、ルールを除けば3枚のカードのみ。たったこれだけのコンポーネントで、3人のプレイヤーによる複雑で濃密な心理戦ができるようになっている。ゲーム展開は、遊ぶメンバーによって異なる。この手のゲームに必要な「ポーカーフェイス」のありようが、人によって違うためだ。無言・無表情で淡々と進める人もいれば、笑顔というポーカーフェイスで喋りながら進める人もいる。個性の違いがハッキリ現れるゲームであり、遊ぶメンバーによってずいぶん雰囲気が変わるだろう。もちろん、どんな表情をしていても、心の中では冷静な状況分析と判断の繰り返しが行われているはずだ。

■悲鳴の出る音 - 崩壊するコミューン■

これ以上ないシンプルさで、心理戦を表現する。このゲームが、複雑系カードゲームの佳作『Innovation』発表したAsamadi Gamesがリリースしているというのは、興味深い。複雑化の極み、単純化の極み、両方のゲームを同じ出版社が出している。両者を遊び比べてアプローチを比較してみるのも、面白いかもしれない。
『Win, Lose, Banana!』は、素晴らしいゲームだ。心理戦が好き、という人なら、だまされたと思って、ぜひ一度遊んでみてほしい。


……「だまされた!」と思っても、怒らないでね。