第一回目セッション(リプレイ・その1)

興味のある方はどうぞ。


■僧院の廃墟にて(7日目・7)
「さよなら、ラッド。君と過ごした楽しい時間を、俺たちはきっと忘れないよ」。血だまりの祭壇前で事切れている彼に向かって、つぶやくように俺は言う。
「確かに、楽しい時間だったわね」と、マイエラ。「お別れはそこまでだ。俺は疲れたぞ。早く帰ろう」祭壇に続く隠し扉の前で、不機嫌そうなアルハイム。ズーブはコードの神に祈りを捧げ、「もっと信心を深めれば、生き返らせて思い出話でもするのに」と残念そうに言う。そう、もう俺たちにできることはない。あの黒い箱を持って帰る以外には。



■使い込まれた鎧の男(1日目・1)
最初に誘いをかけてきたのはラッドだった。ちょうど1週間前、アナトの村の船着き場でのことだ。「おい、今年は流氷の動きが早いらしいぞ」「ってことは、ウエリントン行きの船は?」「まぁ、2、3週間は無理だろうな」「ちっ、始まっちまったか」「そうぼやくなって、毎年のことじゃねぇか」……雑多な人々が口々に言い合っているのを聞きながら、ぼんやりと酒を飲む。特にウエリントンに用事があるわけでもないし、路銀も十分だ。こんな小さい村に閉じこめられるのはいやだから、南のモートにでもブラブラ戻るさ。
そんなことを考えている俺に、柄の悪そうな男が話しかけてきた。「なぁ、兄ちゃん。この機会にちょいと儲けてみようと思わねえか。見たところ、行く当てのない流れ者だろ、あんた。ここで何日か俺に付き合っても、損はしねぇと思うぜ」。男はラッドと名乗り、詳しい話を聞きたければ、宿屋に来いという。街中でショートソードをぶら下げて歩いてるってことは、こいつも俺と同じような身の上か。いや、使い込まれた鎧を見ると、仕事にあぶれちまった傭兵かもしれないな。俺が返事をしないでいると、ラッドはなぜか納得したような顔でうなずきながら「じゃ、決まりだ。宿屋で会おうぜ」と言い残していなくなった。なんだ、そりゃ。引き受けるなんて言ってねぇぞ。


■4人の用心棒(1日目・2)
指定された部屋に集まったのは、6人だった。エルフの野郎が入ってきたところで、ラッドが口火を切る。「これで全部だな。こちらが、ジョゼルのダンナだ。詳しい話はこの人に聞いてくれ。で、お前さん達が仕事の引受人だ。こっちから、クナルト、マイエラ、ズーブ、そしてアルハイム。自己紹介は、後で勝手にやってくれ。じゃ、ジョゼルさん、説明してやってくれ」。
神経質そうな暗い顔をした男−ジョゼル−が、ラッドの言う“儲け話”のホントのところを話し始めた。どうも早口で、言い回しが堅い。商人というより、学者みたいな話し方だ。聞いた話をまとめる……ウソだな、追加説明も入れながら今回の仕事内容を整理すると。
ジョゼルは、とある荷物をシャプシュの教会まで運びたい。モートからここまでは、ラッドともう一人のガイドを加えて旅をしてきたという。ただ、予定していた海路が使えないので、山間を抜けるキャラバンルートを使いたいそうだ。整備された道なので道中の危険は少なそうだが、念のため護衛を雇いたい。ラッドも腕に覚えのある人間だが、それだけでは不足かもしれない。念を入れて、流れ者の冒険者を雇いたい。日当は5GP。その他、道中で必要な食事などの面倒はみよう。
……なるほど、あそこのキャラバンルートか。それなら俺も少しは知っている。確かに通行量は少ないが、整備された道だ。何もなければ2、3日。雪が積もってるこの時期でも、4日もあれば着くだろう。
「でもね、なんで4人も雇うのかな? 危険はないルートのはずでしょ」マイエラ、とか言ったか。エルフの女が言う。「確かにそうだ。5GPっていうのも、不自然に高い気がするぞ」左頬に大きな傷があるズーブも同意する。「ああ、そうだ。しかし、荷物の運搬には万全を期したい。万が一の事態があっては困るのだ。これはある種の保険代わりなのだよ」「ジョゼルのダンナは心配性でな。でも、俺も人数が増えるのは賛成だ。雪道じゃ何があるかわからんからな。それに、何もなくても5GP払おうっていうんだ、何か不満か? そんなに贅沢言ってられるのか、お前ら」。
結局、ラッドに丸め込まれて契約を結んだ俺たちは、翌朝アナトを出発することにして、それぞれの部屋に戻ったのだった。「俺、まだお金あるんだけどな」一人になってつぶやいてみた。まぁいいか、たまには流されてみるのも。

(続く……のか?)